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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)3941号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、よつて、右解約の申入れに正当事由が存したかどうかについて判断する。

(一) 原告等の事情

≪証拠≫を考え合わせると、本件家屋は、その敷地とともに、原告等の父芝村三郎の所有で、同人が昭和二一年頃死亡した後は、その唯一の遺産として原告等の共有に帰するに至つたこと、原告等の母(三郎の妻)芝村万寿子は、三郎死亡後である同年六月頃から、三郎が生前勤務していた縁故により石原産業株式会社西宮寮に寮母として住込みで雇われ、同三五年頃までは、同寮内に万寿子、その母、原告英樹及び篤樹の四名が居住していたが、万寿子が、同三八年一月二六日限りで右会社を定年退職して同寮から立退かねばならなくなつたところ、立退先としては本件家屋以外になかつたため、右退職前である同三七年一二月一日附をもつて、被告に対し本件解約の申入れをしたこと、万寿子は、右退職後さしあたり長女である原告素子の嫁ぎ先に同居させてもらつているが、その家屋は六帖と四帖半の二間があるだけで、そこに素子夫婦と子供二人及び万寿子合計五人が起居しているため、素子夫婦に対する万寿子の気がねがひとかたでないこと、原告英樹(解約申入当時二四才)は、現在中学校教諭として勤務しているが、大阪市内において間借りしており、又原告篤樹(同様二二才大学生)は、本件家屋の明渡しを受けるまでということで、前記会社の厚意により前記寮内の一室に起居させてもらつていること、原告直樹は既に結婚し原告篤樹の学資、生活費を負担し、原告英樹は月収二〇、〇〇〇円の中から万寿子の生活費の一部として毎月金三、〇〇〇円位を送金しているが、近く結婚する予定であり、万寿子は、遺族年金一ケ月金二、〇〇〇円と、原告等(篤樹を除く)からの送金によつて生活しており、それぞれ生活にさして余裕がなく、生活費節約の点からも、一日も早く本件家屋に万寿子、原告英樹及び篤樹が同居して暮したいと念願していることがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足る証拠がない。

(二) 被告の事情

≪証拠略≫を綜合すると、被告は、約三〇年前から、原告等の父芝村三郎より本件家屋を賃借して息子晃と二人で居住していたが、晃が同三一年一月服部初江と結婚し、両名間に同年一二月長男真が出生したので、爾来本件家屋に右四名が居住していたところ、同三五年七月晃が死亡したので、その後は主として初江が会社に勤めて得る収入によつて同居生活を続けていたこと、同三七年九月、初江が宮森純義と再婚して、真を連れて出来島団地に居住するようになつたため、被告一人が本件家屋に居住していたが、約半年後右三名が再び本件家屋に帰つて被告と同居するようになつたこと、右再婚当初は、純義が自動車運転手として得る一ケ月三万五、六千円の収入によつて右四名が生活していたが、同人の収入が一ケ月約二万円に低下したため、同三八年四月頃から初江も再び会社事務員として勤務し、両者の収入によつて生活しているうち、同三九年七月一三日、初江と純義が協議離婚した結果、その後は、初江が得る一ケ月金一九、〇〇〇円の収入のみによつて被告等三名が辛うじて生活していること、被告は耳が聞えにくい上に殆んど目が見えない状態で、初江と共に暮してゆかねばならないのに、本件家屋を明渡さねばならないとすれば、三名が同居するに足る家屋を借り受けることが経済的に困難であることが、それぞれ認められ、右認定を覆えすに足る証拠がない。

(三) 以上認定した原、被告双方の事情を比較考量すると、少くとも、本件口頭弁論終結当時において、本件家屋使用の必要性は被告の方に重いように思われるけれども、更にこれを仔細に検討すると、右各事情の内、本件解約申入時即ち同三七年一二月二日以後に生じた事情については、原告側のものはいずれも右解約申入において当然予想されたと考えられる(従つて正当事由の有無について判断の資料となる)のに対し、被告側のものは右解約申入時は勿論のこと、解約の効力発生時においてもこれを予想することができなかつたと考えられる(従つて正当事由の有無について判断の資料となし得ない)のであるから、この点を考慮するときは、本件家屋使用の必要性は、本件解約申入時ないし解約の効力発生時において、原告等に大であつたというべく、従つて、本件解約の申入れについては正当の事由があつたといわねばならない。(下出義明)

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